1 趣 旨
医療制度改革を目的として、厚生省から「21世紀の医療制度改革案」、与党医療
保険制度改革委員会から「21世紀の国民医療」と題する改革案が提出されている。
これを受けて平成11年1月13日に医療保険福祉審議会制度企画部会の診療報酬
体系見直し作業委員会の報告書、さらに平成11年4月16日には、医療保険福祉
審議会の「診療報酬体系のあり方について」の報告書が発表された。
しかし、これらの改革案並びに報告書の中には疾病の診断・治療には必要かつ欠
くことができない検体検査についての記載が非常に少なく、検体検査について十分
に議論がなされたうえで作成されたとは考えられない。
医療制度改革の目的として、「医療資源の効率的活用(コスト・ベネフィット)」
と「患者にとって質の良い医療サ−ビスの提供」の2点が基本的な考え方とされて
いる。
従って、患者にとって重要である検体検査について、医療の包括化が進む時、検
査に関する粗診・粗療を防ぎ、検査の質の向上を確保しつつ、かつ、医療資源の有
効利用につながる検体検査の利用法をどのように医療制度改革にとり入れるかにつ
いて、臨床検査関連6団体協議会(以下「検査6団協」という。)は検体検査にかか
わる立場から、総合的に検討を進めたのでここに要望する。
2 要望事項
(1)包括化に対応する検体検査の質を確保するための措置を講ずること。
ア 検体検査実施料と深い係わりのある検体検査判断料、検体検査管理加算、院
内感染防止対策加算等が、入院基本料に包括されることなく維持されることを
要望する。
イ 医療の質の維持と向上を確保するため、診断・治療のための検査のガイドラ
インを診療報酬へ反映させることを要望する。
(2)委託検査の検査価格差(検査差益)を解消するために、検体検査実施料の
扱い及び支払い方式について新しいシステムを導入すること。
ア 検体検査実施料は、実勢価格反映方式ではなく、適正な検査原価に基づいて
設定することを要望する。
イ 検体検査に関する診療報酬の医療機関に対する社会保険診療報酬支払基金等
からの支払いについては、院内で検査を行った場合は、検体検査実施料の満額
を支払い、登録衛生検査所(以下「検査センタ−」という。)に委託した場合は、
請求書添付方式、すなわち医療機関が検査センターに支払った額を診療報酬と
する給付方式を導入することを要望する。
ウ 新たな方式であるア〜イが導入されるまでの期間の暫定措置として、委託検
査における受託価格については、昭和63年5月30日付け、厚生省告示第
165号、別表第二歯科診療報酬点数第二章第九部歯冠修復及び欠損補綴中通
則「5 歯冠修復及び欠損補綴料には、製作技工に要する費用及び製作管理に
要する費用が含まれ、その割合は、製作技工に要する費用がおおむね100分
の70、製作管理に要する費用がおおむね100分の30である。」と示された
ような取引価格基準に関する行政指導を、検体検査実施料についても実施する
ことを要望する。
(3)検体検査の安定供給を確保し、研究開発の促進ができる環境を整備すること。
検体検査の安定供給及び検体検査の研究開発の促進を図るため、検体検査薬(体
外診断薬)の価格に直接影響する実施料の設定に関して、新しい検査項目(区分
D−1)に対しては、既存の類似検査の点数項目、検査方法の準用によることな
く、開発努力を保険点数に反映させ、保険適用後も一定期間(少なくとも1年間)
は保護できる政策を要望する。
(4)検体検査に混合診療を導入すること。
患者のインフォ−ムド・コンセントが得られた検査項目(保険収載、未収載に
かかわらず)について、それぞれの患者の状況にあわせて医師の判断による自由
価格(保険収載項目においてもその実施料と連動しない価格)が徴収できる自由
診療制を保険診療の中に一部認める制度を要望する。
(5)検査デ−タ共有化のための環境整備を行うこと。
検査デ−タ共有化のための標準品の制定や測定法の基準化、施設間の精度管理
等検査の標準化を行うことを要望する。
以上、検査6団協としての要望提案の趣旨は、全て医療資源の有効利用と患者にと
って質の良いサ−ビスの提供につながるものと考えており、法的整備を必要とする点
もあるが、今回の医療制度の抜本的改革に際し、ぜひご検討頂けるよう関連団体の総
意として要望する処である。
以上
医療制度改革における検体検査の取扱いに
関する要望書の説明資料
平成11年 7月12日
臨床検査関連6団体協議会
医療制度改革に対する検査6団協要望の具体的な事由とその効果について、説明する。
1 包括化に対応する検体検査の質を確保するための措置を講ずることを要望する
事由とその効果
(1)検体検査実施料(以下「実施料」という。)と深い係わりのある検体検査判断料、
検体検査管理加算、院内感染防止対策加算等が、入院基本料に包括されることな
く維持されなければならない。
なぜなら、院内で検体検査を実施する場合、登録衛生検査所(以下「検査セン
ター」という。)と比較して検体数が少なく、特に緊急検査、夜間休日検査などは
多数項目、少数検体で実施することが多い。これらの院内検査の質を確保するた
めには、少数検体に対しても対応できる特別の精度管理を実施するとともに、医
師により検体検査の結果が適切である旨判断されることが必要である。
検体検査判断料、検体検査管理加算、院内感染防止対策加算等が入院基本料に
包括されると、検査の質の確保のために必要な種々の精度管理が、適切に実施さ
れなくなるおそれがある。すなわち、院内検査では、検体検査の質の確保のため
に、上記項目が入院基本料に包括されることなく維持されるべきである。また、
委託検査の場合には、検査センターでは検査実施に際し、患者情報が得られるこ
とは殆どない。従って、種々の患者の病態情報と対比し評価すべき検体検査結果
は、必然的に依頼した医師が適切に判断しなければならない。すなわち、委託検
査においても、検査の質を確保するために検体検査判断料は、入院基本料に包括
されることなく維持される必要がある。
(2)今後、医療の包括化が進められるとき、限られた医療資源を活用するためには、
検査の利用の仕方に改善すべき点が少なくない。科学的な根拠(Evidence Based
Medicine;EBM)を達成するための重要な要素として適切な診断・治療のための検
査のガイドライン(日本臨床病理学会作成)にそって、必要な検査項目の選定基
準を示し、診療報酬へ反映させることが必要である。これにより、過少診療や粗
診・粗療におちいることなく医療水準を確保でき、医療の質の維持と向上につな
がるものである。
2 委託検査の検査価格差(検査差益)を解消するために、検体検査実施料の扱い
及び支払い方式について新しいシステムの導入を要望する事由とその効果
(1)実施料の見直しについては、実勢価格反映方式がとられ、実勢価格に基づいた
引下げが行われている。しかし、実勢価格は、医療機関からの低価格要請等によ
って定まる可能性が高く、その結果、必要以上の実施料低下を余儀なくされてい
るのが現状である。
院内検査、院外委託検査とも、人件費、試薬費、精度管理費、設備償却費等の
検体検査全般の管理に費用がかかっているにもかかわらず、このように実勢価格
のみの要因に偏って実施料が設定されることが続けば、実施料が適正な検査コス
トと乖離し、実施料の中に含まれる検査の生命線ともいえる精度管理に要する費
用も圧迫され、良質な検査の提供が困難となってくる。
適正な実施料を設定するためには、実態に即した明確な算定基準に基づいて適
正な検査コストを算定することが必要である。今後、実施料は、実勢価格反映方
式ではなく、検査コストの基礎数値に基づいて設定されるべきである。
ドイツでは、本年7月から新たな医療制度改革を実施するにあたり、検査コス
トの客観性と妥当性を高めるために、その算定を外部コンサルタント(米国マッ
ケンジ−社)に依頼している。我が国においても、適正な実施料の設定、検査コ
ストの算定にあたり、院内検査および院外委託検査に対して同様の取組が必要と
考える。
その結果、現行の実施料が原点に立ち戻って見直されることとなるが、行政や
国民にとって、検査に対する妥当性、透明性、納得性が得られるためには必要な
措置と考える。
(2)実施料が適正なコストに基づいて設定されるならば、基本的にはその実施料の
通り、もしくはその実施料に準じた価格で取引されるべきである。一方、検査セ
ンタ−における企業努力による市場原理を反映するうえで、公正競争規約の遵守
を前提とした実勢価格が存在する。その結果として、検査コストに基づいた適正
な実施料が設定されても、院外委託検査には検査価格差(検査差益)が生じるこ
ととなる。
したがって、その解消策として、検体検査に関する診療報酬の医療機関に対す
る社会保険診療報酬支払基金等からの支払については、院内で検査を行った場合
は実施料満額を支払い、検査センタ−に委託した場合は検査センタ−への支払い
額(検査センタ−からの請求額)と同額を支払う請求書添付方式、すなわち「医
療機関が検査センタ−に支払った額を診療報酬とする給付方式」の導入を提案す
る。検査価格差(検査差益)解消の抜本策として、直接請求方式の導入が考えら
れるが、医療財政逼迫の即効的な解消という観点から、抜本的な法改正を必要と
せず、現行法制度のもとでの厚生省告示レベルによる変更で対応可能な請求書添
付方式の早急なる導入を要望するものである。
検査価格差(検査差益)の解消により、品質とサ−ビスに基づいた競争となり、
検査にとって望ましい方向になる。また、この方式の運用を徹底させるために、
キックバック等の違反に対して厳しい罰則等の措置を講じることも必要である。
ただし、検査価格差(検査差益)は薬価差益と同様に医療機関の経営原資とし
て、不適切な技術報酬を補っているとの指摘もある。そこで、検査価格差(検査
差益)の解消については、技術報酬の見直しと同期させて解消していくことが必
要であると考える。
(3)この新たな方式が導入されるまでの期間は、暫定措置として、昭和63年5月
30日付け、厚生省告示第165号、別表第二歯科診療報酬点数第二章第九部歯
冠修復及び欠損補綴中通則5で示されたような取引価格基準に関する行政指導に
より、委託検査における検体検査実施料について実施することを強く要望する。
このようにして検査価格差(検査差益)を解消し、検体検査実施料を院内検査
の実施に必要な点数に留めることにより、不必要かつ不合理な院内検査の外部委
託に歯止めがかかり、検査センタ−間の過当競争がなくなり、医療の透明化に際
し、多くの医療機関が極端な検査差益を得ているような誤解の発生を抑えること
ができる。
3 検体検査の安定供給を確保し、研究開発の促進ができる環境の整備を要望する
事由とその効果
(1)検体検査の安定供給の必要性
臨床検査医学の発達により、検体検査は臨床上、診断・治療に欠くことの出来
ないものとなっている。病院内検査室と検査センターは全国の臨床医家に、精度
の高い検体検査を必要な時に利用できるよう供給してきた。その結果、国民に対
し良質な医療の提供に寄与してきたわけであるが、説明資料の2で述べた委託検
査における検体検査の価格差に加えてデ−タ共有化など検体検査に関する情報開
示や整備の遅れのために検体検査の乱用が一部発生し、医療費増大の原因のひと
つとなった。
医療費抑制の波の中、検体検査の適正利用の促進を行うことなく、包括化の導
入を行い、さらに委託検査の実勢価格による検体検査実施料の引下げを続けられ
た場合、今まで構築されてきた検体検査の供給システムが崩壊することになる。
なぜなら、説明資料の2で述べたような改革なしでは、院内検査室の収支バラン
スが維持されず、本来院内で行われるべき検査が委託化されるような事態が起こ
る。
さらに、検査センター自体も精度管理を維持できるだけの受託価格が得られず、
現代医療をサポートする質の確保された検体検査を安定に供給することが出来な
くなる。この検体検査の安定供給を脅かさないためにも説明資料の2で述べたよ
うな施策の実行を要望する。
(2)検体検査の新技術・新検査法の研究開発促進の重要性
臨床検査医学の急速な発達により、医療水準の向上があったことは論を待たな
い。今後も診断・治療に対する高度の判断材料を提供する新技術を用いた検査方
法について、その研究開発を積極的に進めることは、将来の医療水準の向上にと
って必要欠くべからざるものである。
新技術の開発には、他の自然科学部門と同様、産学が共同する事が必要である。
新しい検査技術開発の停滞は、我が国の医療水準向上を阻害し、国民に最新、最
良の医療を提供できなくなる可能性がある。従って、我が国における新らたな検
査技術の研究開発の遅滞がおきないよう十分留意する必要がある。
(3)検体検査薬(体外診断薬)の価格に直接影響する検体検査実施料の設定方法の
改善の要望
近年、検体検査薬(体外診断薬)の開発に対して、次のような傾向が強くなり、
新技術、新検査法の評価がされにくくなってきていると共に先発企業の保護がな
されていない。
ア 新しく開発した検査項目(区分Dー1)の保険点数の申請においては、既存
の類似検査の点数の準用により決められるケースが多く、実質の開発費を加味
した価格が点数に反映されていない。
イ 簡易迅速法を開発しても、簡単・迅速に検査が出来るものであるならば、低
い点数で良いとの考えがなされ、簡易迅速法を開発した努力が認められていな
い。
ウ 高度の判断材料を提供する新技術による測定法は、研究開発費の高騰から必
然的に測定試薬・機器は高価格になってきている。しかし、保険適用に際して
は技術革新に対する点数は低く、診療報酬の面でも評価は不充分である。
エ 検査室で行われる検査とベッドサイドで行われる検査は、その診療上の付加
価値が異なるにも係わらず同一点数であることも矛盾している。
オ 区分Dー1の保険適用申請では、先発企業は、資料収集から始まり、厚生省
とのヒアリングを行い、その結果として保険点数が設定される。しかし、後発
企業は、薬事承認さえ取得すれば即保険適用となるので、企業の先発努力、経
費等について、診療報酬の面で保護されていない。
このような状況が続けば、検体検査(薬)の研究開発は停滞し、患者にとって
良質な医療サービスの継続的提供や医療費の有効利用がますます困難なものとな
る。
そこで、先発企業の保護を目的とし、かつ、新たな検査項目や全く新規な技術
の市場報告を得るために、一定期間(少なくとも1年間)は、後発企業の保険適
用を保留することを要望する。
ただし、後発企業が充分な市場評価を行って保険適用の可否が判断されたもの
はこのル−ルは適用しない。検体検査薬においても、一定期間保護することは、
現在の適用区分の扱いを一部改定することにより対応は可能と考える。
患者から良質な医療の提供が求められている以上、高価格であっても使用条件
を整えながらコストに見合う妥当な点数の設定が必要である。
以上、説明資料2で述べた検体検査実施料の新たなシステムを設けることやこ
こで述べた先発企業を一定期間保護することの政策を行うこと等により、委託検
査料の安定化が見込まれ、院内検査も妥当な実施料が確保されるところから、検
査薬の価格が安定し、その結果として、検体検査(薬)の研究開発が促進される。
(4)検体検査薬(体外診断薬)の法的位置づけについての要望
現在は、検体検査薬(体外診断薬)の開発に際しては、試薬とそれに使用する
機器即ち医用検体検査機器は別々に法的規制がかかり両者を併せたシステムとし
ての性能保証ができる制度になっていないことは、検体検査の実施における精度
管理面でも問題がある。また、保険適用においても、説明資料3の(3)で述べ
たような問題が残されている。
しかし、体外診断薬と医用検体検査機器を併せたシステム(In Vitro
Diagnostic-MedicalDevice;IVD−MD)としての性能保証ができるような法
的位置づけと、区分D−1の薬事承認後の診療報酬点数収載へのつながりを持た
せることは、良い検査項目と、より精度の高い検査方法を早く患者に対して実施
することができ、良質な医療の提供にも寄与するものである。
4 検体検査に混合診療の導入を要望する事由とその効果
現在、検体検査には保険収載のものと未収載のものがある。このうち、保険未収
載のものについては、保険医療を行っている患者について実施することは許可され
ておらず、医師の研究検査として患者のインフォ−ムド・コンセントが得られた場
合にのみ医師(医療機関)が検査料金を負担する形で検査が実施されている。また、
保険収載された検体検査についても、鑑別診断のために行う検査について全てレセ
プト用診断名をつけて行わなければならず、予防医学的な検査も疾患治療時に保険
で行うことは認められていない。
そこで、カルテには、実施した全ての検体検査を記載し、その中から保険医療に
必要であった保険収載検査項目だけをレセプトで請求するシステムを認め、その他
の検査項目については、患者のインフォームド・コンセントが得られたものについ
て、それぞれの患者の状況にあわせて医師の判断による自由価格(保険収載項目に
おいてもその実施料と連動しない価格)が徴収できる自由診療を保険診療の中で一
部認める制度を要望する。
これにより良質な医療の提供と医療の透明性を促進することができる。
5 検査デ−タ共有化のための環境整備を行うことを要望する事由とその効果
医療機関間の検査デ−タは施設を異にしても、測定値は常に同程度の値で提供さ
れ、患者個人のデ−タが共有されることが重複検査を排除する意味から望ましい。
しかし、現状は、精度管理調査等で示されるように、施設間や検査方法の違いによ
りデ−タに差が生じていること、また標準測定法と標準物質の整備、検査現場での
標準作業手順書(SOP)と記録・保管などの整備に遅れがあり、測定値の精度保
証の意味から、直ちに検査デ−タを共有化できない側面がある。
従って、これらの問題を早急に解決した上で、検査デ−タの共有化を図る必要が
ある。
以上、現在の医療制度の中で、検体検査のかかえる様々な問題点と、将来医療の包
括化が進むことにより発生するであろう問題点に対する解決策を検体検査に関連する
団体として要望し、その事由と効果についての説明を行った。
以上
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