中央検査部ブランチ化の問題点 村井 哲夫 聖路加国際病院臨床病理科 |
聖路加国際病院は2000年度から実施予定の医療保険制度の根本的改革に対応すべく、経営基盤の強化を図っている。 その対策の一つとして検査部運営方法を全面的に見直すことになった。病院が新設されてから既に7年を経て、検査部設備の更新に多大な費用が必要と見込まれたこともその要因の一つである。 これに対応すべく図1に示す臨床検査の外部委託方式も含め、聖路加国際病院臨床病理科(検査部)を機能的にも経営効率からも最適と判断されるものを採用すべく検討された。 図1 臨床検査の外部委託方式 |

外部委託方式には、 (1)外注方式:緊急検査ないしは即日対応が必要な検査項目の一部は院内の施設で対応する場合もあるが、大部分の検査は“検査センター”に外注され院外の検査施設において検査が実施される。この方式は我国では診療所、中小の病院などで広く実施されている。 (2)FMS方式 (Facility Managed System):臨床検査を担当する技師、およびそのスペースは病院側より提供されるが、分析装置などの設備、試薬や消耗品等のランニングコスト、および検査部運用の為のノウハウは受託先の“検査センター”が負担する。病院は検査部構築の為の多大な費用を負担しなくてよい。臨床検査の主要なものは院内検査室で実施される場合が多い。最近中規模以上の病院検査部でこの方式が採用される例が多くなってきた。 (3)ブランチラボ方式:受託先が院内のスペースを利用し新たに検査室を創り、診察に必要な検査を実施するもので、検査を担当する臨床検査技師の人件費、検査部設備の為の費用、試薬等のランニングコスト、その他検査部管理運営の為の費用と責任等臨床検査業務を遂行していく為の全てを請け負う。新設病院の検査部等で採用される例もみられるが、既設の大規模病院では既に業務を担当している臨床検査技師の身分保証等の問題があり、この方式で運用される例は少ない。 尚、いずれの方式においても受託費用は病院が診療時の臨床検査により受けとる保険収入から一定の比率で分配される例が多い。 聖路加国際病院臨床病理科(検査部)の運用方式として、従来の運用に併せてこれらの外部委託方式が検討された。いずれの方式にも一長一短はあるが、 (1)外注方式:設備をする為の資金の必要額が少なく既在の検査部エリアのかなりの部分を、直接収入を得ることが可能な外来部門に変更できる等メリットも大きい。但し、院内で実施する検査業務の縮小は検査部が提供している検査以外の様々の診療側へのサービス機能(血液像、骨髄像の写真撮影等)の低下ないしは廃止をせざるを得なくなることが予想されること、および、臨床検査技師の配置替え、ないしは定員の削減が必要等大きな問題があり、この方式の採用は除外されることになった。 (2)FMS方式:設備の為の資金、およびランニングコストの負担を考慮する必要がなくなることは大きなメリットではあるが、病院経営を圧迫する大きな要因である固定費(主として人件費)の削減が期待できない。その経済効率に限界があると判断された。また最近一部の施設で採用されている“一括試薬リース方式”(検査設備の費用をランニングに利用する試薬費、消耗品費の費用に分配し消却する。所謂試薬リース方式を単一の分析装置だけではなく、検査部で利用する装置全般に対応させる。)と比較しても経済性に大きな差が認められない。試薬リース方式には分析機器や試薬の選択に、病院側の自由度が大きいことなどから、むしろFMS方式よりメリットが大きい点もある。他に良い方法がない場合に検討の対象とすることになった。 (3)ブランチラボ方式:FMS方式と比較し臨床検査技師の人件費(固定費の主要な部分を占める)が受託側の負担となり、経済的に病院にもたらされる利益が最も大きいと判断され、この方式の採用が検討されることになった。既に勤務し業務を担当している技師の身分保証が重要な問題であり、個々の技師が納得して受け入れることが可能な方法があればこれを採用することに決定し、我国の主要な臨床検査センター5社に、その主旨を伝え“提案書”の提出を求めた。その中から2社の提案が受け入れ可能との判断に達し、病院側と2社との間に数回の打合せが行われた。最終的に今回、聖路加国際病院方式とされる“ブランチラボ”の導入が決定された。この方式は (1)ブランチラボの対象は、生化学、血清、血液、一般、細菌、緊急検査とする。 (2)委託センターはスペースを病院側から賃借する。 (3)ブランチラボに臨床検査技師29名が出向し業務を行う。 (4)出向する検査技師は、聖路加国際病院労働組合に所属することが可能であり、給与、労務規定も従来の病院職員と同様に扱われる。 (5)当日直は病院職員、出向職員ともに行う。 (6)委託センターは契約期間、出向検査技師の業務量の維持に努める。 (7)緊急検査に対応する機能を向上させる為、サテライト検査機能を充実させる。などの条件で運用することになった。 委託センターは出向する29名の検査技師の労働対価を一括病院側に支払い、出向職員への給与は病院から支給される。 委託センターへの報酬は診療時に実施される検査の保険収入と健診などによる収入を病院側と定率配分することになった。 1999年3月1日より聖路加国際病院臨床検査部、検体検査部はこの方式により運用されている。 聖路加国際病院臨床病理科の改革は、医療環境の変化に伴い、臨床検査室の経済性が問われるようになってきたが、そのような状況下で病院検査部の機能の維持と向上、臨床検査技師の業務の保存、職場確保を第一条件に考えた選択であった。 当日の質疑応答の要点を下記のごとくまとめた。 I.契約期間5年を経過後、契約の見直しに 当り契約先が変更されることがあっても病院独自運営の体制に戻ることは考えにくい。 II.ブランチラボが選択されたのは、経営的判断と技師の聖路加国際病院職員としての身分保証が担保できたことが大きい。 III.ブランチラボ導入前の検体検査部の収入は黒字を堅持していた。しかし、今後の医療保険制度の推移などを勘案し、足腰の強い状態で改革に踏み切ることが必要と判断された。 IV.導入前の予想よりも業務委託量が多く、委託先の負担が軽減されている。 V.ブランチラボ導入の基で検査部としての研究活動をいかに維持していくか、さらに診療部門の臨床研究などへの協力をどのように行っていくかは大きな課題である。 |